独占インタビュー

「ラーメン屋は仲間」話題の麺には不死鳥カラスあり…つけ麺ブームの火付け役・浅草開化楼の人気製麺師から学ぶ″こだわり”の突き抜け方

『カラヒグ麺』誕生の秘話

ーー最近ではパスタ麺の「カラヒグ麺」を開発されたことと思いますが、ラーメンとパスタといえば同じ”小麦”が主原料ですが、全く異なるジャンルになりますよね。イタリアンシェフの樋口敬洋さんとの出会いが大きな転機となったと思いますが、どんなきっかけでパスタ麺の開発が始まったのでしょう…?

会社への問い合わせの電話がきっかけでした。最初は別の営業担当の子が何度か電話に出ていて、かなりグイグイ色々な事を聞かれるもんだから「僕の手には負えないんで次かかってきたカラスさん替わってください」って言われて(笑)

電話に出てみたら、まず自己紹介されて。ものすごい勢いで喋ってきたね。

『修業先の南イタリアのシチリアから帰国してきて、現地と同じような麺がどこにも売っていないのです。パスタマシンで自分で作ってみても、加水率が低く機械が壊れてしまう』と。

半ば諦めていたらしいんだけど、『中目黒の”スタ麺 轟”(現在は閉店)で麺を食べたときに、ラーメンなのに久しぶりに南イタリアのパスタを食べたような懐かしい感じがしたんです。これって何ですか?』と言われて(笑)

そこまで一気にバーーーって電話口で言われて、なんて素敵なやつなんだって思ったんだよね。自分の中で湧き上がってくる感情や感想をぶつけてくることも素敵だと思って。

知らねーよ!って返しましたけど(笑)」

ただ、俺ら町工場だから、当時ラーメン以外のパスタなんて無縁の世界じゃないですか。

でもそんな本来無縁の場所に、色々調べてみたら凄いお店から俺らの麺を褒めてもらったっていうのも嬉しくて。それからというもの、樋口さんからの質問がもうあまりにも多くて(笑)

電話でのやり取りが面倒くさくなって「一回会います?」ってなったんだよね。

樋口さんが食べたのは日清製粉の「オーション(二郎や二郎インスパイア系でよく使用される粉)」100%で打った中華麺だったんだけど、俺は関与していなかったから、当時よく打っていたデュラム小麦を配合に組み込んだ中華麺をお土産に持って行ったんだ。俺の麺を食ったらどんな反応するんだろうって思ってね。

ーーえええ、ドキドキですね。反応は…どうだったんですか?

「もう帰ってすぐに『何ですかあれ!?』って言われて。より驚かれたね(笑)」

実はカラヒグ麺の形状は、この時お土産で持って行った中華麺と同じ。これは今も変わらないんだ。ローマのトンナレッリという形状のパスタのイメージ」

ーーなんと!ローマにはあんなに太いパスタ(つけめんの麺のような)が存在するんですね。

「それから、樋口さんが俺のそのつけめん用中華麺に合わせてソースを作ってくれたことから始まって。

3-4ヵ月試作が続いて、『カラスさんの中華麺に合うソースを7種類くらい作ったので、自分の会社の人間を集めて試食会をやりたい』と言われて。

いざ始まったら、凄く盛り上がっちゃって。出てくる言葉が『懐かしい』『これはやばい!』とか。みんなイタリアで修業した人ばかりで、お客さまに出す機会を一度設けた方がいい…なんて話まででて、その時樋口さんがまた格好いいこと言うんですよ。

『僕らがやっていることは邪道かもしれません。100人食べたら99人が邪道と言うでしょう。

でも100人のうちに1人でも実際にイタリアで生活されている人がいたら、これを食べたときに必ず”懐かしい”という言葉が出ると思うんです。それに勝る本物はないです』

それを聞いて、皆でじゃあメニュー化しましょう!となってその会は終わりましたね」

「お客様には出せません」衝撃の電話の真相

「ただその帰り道、車で帰っていたら樋口さんから突然電話がかかってきて。

『カラスさんすみません。さっきあんなことを言っちゃったんですけど、やはりお客さまには出せません』って言われて」

ーーええっ!?聞いている限り、かなり試食会でも手応えがあったように思えるのですが…!?

「樋口さんは続けて、こう言ったんだ。

『お客さまにお出しする前提で改めて食べてみました。僕らは10皿のコース料理なんです。その1〜2皿に入る僕らの手打ちのパスタ…量で言えば僅か10〜20gなんですが、それをカラスさんの中華麺に置き換えて食べたところ、素晴らしく美味しいんです。

ですが、食べ終わって余韻に浸った時、ちょっと汚い話ですけどゲップが上がってきますよね?それが、カラスさんの麺に使われてるかんすいの風味なんです…』と。

つまり、胃から上がってくるかんすいのインパクトが強くて、他のお皿の印象を全て消してしまうんだと。僅か10〜20gの麺なのに。普段のパスタではあり得ないことなんです、と。

『やはりこれをイタリア料理として出すわけにはいかないという結論に至りました』って言われたんだよね。

ついさっきまであんなに盛り上がっていたのにだよ!(笑)

てかぶっちゃけ、今更じゃなく3〜4ヶ月の試作期間に気付けよって話なんだけど(笑) 」

ーーそれは確かに(笑)でも、普段コース料理を食べるときには上がってこない風味が気になってしまったわけですね。

「それを聞いて一言、『ああ、そう』って言ったの(笑)

…でもそう言いながら、いい大人があんなに興奮していたあの”熱”を消してしまうのは勿体ないなと思って。

彼は、俺の打った麺に合わせてソースを作ってくれて歩み寄ってくれているのに、俺は普段通りの麺をずっとあげていただけだから、何も別に努力してしてねえなって。

そんなことを考えた一瞬の間を置いてこう切り出した。

『…じゃあさ、パスタになるかわからないけど、とりあえずかん水を入れずに作ってみるよ』と。

それが、”カラヒグ麺”(カラス+ヒグチの掛け合わせ)誕生のきっかけなんだ」

「手打ちのパスタにはレシピがあるけど、それを俺が聞いて自分たちの機械に落とし込んでそれっぽいものが作れても意味がないと思っていて。

俺がやるんだから、ラーメン用に作った配合でやらなくちゃ意味がない。だから、元々樋口さんが試食で使ってきたデュラム小麦を使った配合から、純粋にかん水だけを抜いたものをパスタにしたんだ

ポイントは”加水率”。試行錯誤の上生み出された、伸びにくく歯切れの良い「カラヒグ麺」

ーーそこから、パスタ用の麺の本格開発に入るのですね。

「最初にかんすいを抜いて作った時は、何故か出来損ないのうどんのような、柔らかすぎる生地になってしまって。

”そうか、これがかんすいの力(グルテンの締まり)なんだ”と気付いた。

練り上がりの生地感を合わせる為に加水率を落として、早や(笑)2回目で成功するんだけど、元々つけめん用に作っていた配合だから、本来パスタには入らないような小麦粉が配合の柱になっているわけ。

ましてや、評価されているイタリア料理屋さんで使用するとなると手ごたえがわからなくて、不安でしょうがなくて、当時メニューが変わるたびに食べに行っていたんだよね。

そうしたらある日、隣のテーブルから「麺がもちもちしていて美味しいね」というのが聞こえてきて。

樋口さんは俺に最初から『パスタにもちもち感はいらない。歯切れが大事』と話していたんだ。一定の満足を持って使ってくれているわけだけど、今度は段々その”もちもち”というのが重荷に感じてきてしまって」

ーーまあ、感じ方も人それぞれだったりはしますものね…

「それから、”パスタ”という枠組みの中にしっかりと納まる配合を作ろうと思って走り出して、2年後にできたのが専用粉”ファリーナ ダ サローネ”ですね。この粉で打った麺が「カラヒグ麺」で、低加水時間がたっても伸びにくいのが特徴です」

「ちなみに、いつかこの出来上がった粉に”かんすい”を入れて新たな中華麺を作ってみたいと夢を見ていたんだけど…

現実となったのが銀座八五』の麺です」

ーーーなんと…!このパスタ用にもともと配合したサローネの粉が、八五さんに…!『銀座八五』さんでは、ラーメン業界で革命が起きたとも呼ばれた製麺所の麺を使用してのミシュラン・一つ星獲得をされましたよね。驚きです…!!

手掛けた麺が日本の新しい麺のスタンダードになる日を夢見て

ーー不死鳥カラスさんが今目指している目標だったり、描いている夢はありますか?

「自分が始めたことを広げていくっていうのが凄く大きなテーマなので、今後は日本全国にこのカラヒグ麺を広めていきたいなと思ってます。

会社の利益にそれじゃならないじゃんって声もあるんですけど、それは違うんですよ。

イタリアの方が食べても全く違和感を感じないパスタの枠に収まりつつ、乾麺とも業務用の生パスタとも全く違う選択肢。この”カラヒグ麺”は今、沖縄の製麺所でも作られているんですよ」

ーー「カラヒグ麺」は現在レシピもすべて公開されて、作り方も指南されていますものね。日本最南端までもう届いているのですね…!

「”浅草の町工場から始まったものが日本の新しい麺のスタンダードになって、誰もが知ってます”ってなったらきっと、この麺、誰が始めたの?って話になるでしょ」

ーーめちゃくちゃ格好いいです…!いつか、そんな日がくること楽しみにしております!

※ロケーション協力:『ASAGE CAFE -カワドコCAFE&BAR-浅草蔵前』さん

関連ランキング:カフェ | 蔵前駅田原町駅浅草駅(東武・都営・メトロ)

ーーー

最後までお読み頂きありがとうございます。

筆者のSNSも(ほぼ)毎日更新中です。是非是非チェックしてみてください✔︎

Twitterはこちら (ラーメンを主体とする日常を綴っています)

『不死鳥カラス』さんの一日密着・工場見学編のYouTubeはこちらから!

1 2